雑記:創作漫画への指摘事項を振り返る

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 ※この記事は、いずれ完全非公開となる可能性があります。ご了承ください。また、文字数削減などの理由から、この注意書きより後の本文について、敬体ではなく常体を用いることについてご理解をお願いします。

 2024年3月10日、北九州市で開催された「九州コミティア8」という即売会に参加した。その結果や感想についてはまた別の機会に記すとする。ここでは、その際に同時開催された出張編集部における拙作への指摘事項を備忘録として、或いは未来の挑戦者への他山の石として公開するものである。

本記事作成・公開の主目的

1:未来の挑戦者が、本記事の内容(指摘事項等)を読むことで自身の作品を振り返り、その作品の完成度を高める機会となること

2:挑戦しようか迷っている者に対し、持ち込み等(他者に見てもらう、判断してもらうこと)に対する恐怖心を取り除くこと

3:挑戦した結果が芳しくなかった際の精神的予防策や、早めに立ち直るための助力となること

状況と私自身の落ち度について

 まず、持ち込んだ作品や状況、そして何より私の落ち度について最初に説明せねばならない。どのような漫画を持参した結果このような指摘を受けたのか、という背景をある程度明記しておかなければフェアではないと感じるからだ。よって簡潔であるが、記せる範囲で状況を記す。なお、早く指摘事項だけを見たい場合は読み飛ばしていただいて問題ない。

作品:オリジナル(一次創作)読切73頁(当日の頒布物に同じ)

完成状態:線画は完成していたが、ベタやアミなどの仕上げは不完全。「当日新刊無し」を回避するため妥協したページが多々ある状態。物語を読むには問題ない形であったと思う。

背景と落ち度:詳しくは書けないが、年末年始から2月末にかけてどうしても家族の命を優先すべき状況が続いた。また、人手不足によりフルタイム社会人としての仕事も休むことが出来なかった。当日の朝まで製本作業を行っていたためまともに質問事項を準備することもできなかった。

その他:年齢、受賞歴、フォロワー数などでマイナス要素が多い

状況総括:そもそも持ち込みに行く予定が無かったが、この機を逃せば一年後なので行ってみた。明らかに準備不足の状態で臨んだ落ち度は否定できない

指摘事項の一覧

 さて、背景を簡単に記したところで早速本題に移る。主な指摘事項は以下のとおり。

A:キャラの表情はなるべく描くべし

B:最初の3ページで事件を起こせ

C:情報の取捨選択と説明役のモブ化

 細かく言えばもう少し色々あったのかもしれないが、作品のジャンルや舞台がよくなかったり、テーマ性が伝わらなかったりして話が弾まなかったので深く意見交換をすることが出来なかった。ただ、すぐ改善できる&共有したほうがよいと思われる指摘事項Aを頂けたことは非常にありがたいことであった。

A:キャラの表情はなるべく描くべ

 まず、指摘を受けたページを公開する。

 このページは、一人ぼっちでサッカーをするしかなかった主人公が、初めてライバルを得たシーンである。ライバルは強めとはいえ「インサイドキック」で主人公に返球した。

 ここで、眼のアップが4,5コマ目(★を付けた部分)と続くが、もしそれらにセリフをつけるのであれば「4コマ目(ライバル)は『やるじゃない』」「5コマ目(主人公)は『この人、出来る人だ…!』」というつもりで描いていた。だが、編集さんは「4コマ目の表情は、『くっ、止められた…!』という感じですよね?それがこのトリミングの仕方じゃ伝わらないんですよ。口元まで映すようにしないと伝わりません」と仰った。…お分かりいただけたであろうか。全然伝わっていないのである。全く違う意図で伝わっているという最悪のミスである。

 筆者が口元を描くとすれば、4コマ目も5コマ目も「にやっ」とした感じだった。何故なら「インサイドキック」だったから。インサイドキックはパスするための蹴り方で、コースだって足元に収めてもらうように蹴ったのだから「止められた…!」となるはずがなかった。しかしこれは、フットボール(サッカー)を知らない人には伝わらない。そういった読者を想定して描けていない筆者の親切さ不足を見事に指摘された。

 続いてもトリミングの部分。3コマ目の主人公の感情が読み取りづらいという評価だった。涙ぐんでいるのはわかるが、それが狼狽しているのか、絶望しているのか、ぐっと堪えているのか、そういった細かい感情が読めないということである。淡々と別れを告げるライバルに対し、主人公はどういう気持ちで聞いているのかが伝わらない。伝えるためには口元まで映るように引いた画面にしましょうというアドバイスがあった。全てのシーンでそれを守るという極端な選択をする必要はないが、確かにこの場面はもう少し引いて口元を映すことに特段のデメリットもなく、ブラッシュアップすべき点だと感じた。

 次は、「なるべく顔は描け」という指摘である。この場面では主人公が背を向けているが、まずこれがNG。次いで最後のコマでライバルの表情も見えていないのがNGということであった。読切であればなおさら「キャラの顔は、なるべく読者に覚えてもらうために省略しない」という大前提があり、これに前2つと同じ「感情が伝わりやすくする」ということを加味して描く必要があるとのことであった。あと、せっかくの大きなコマでこれはもったいないということもあったのだろうか。

 ちなみにこの場面、直前までネームではこんな感じであった。

 先の理論で言えば、このまま作画したほうがよかったということになる。

 最後のコマは冒頭に記したとおり作画時間の都合で省略してしまったため、ここはもう少しカメラを側面に回して目元口元までを映すように変更したい。中央のコマは、主人公の淋しさを表現しなければならないので工夫が必要だ。ネーム同様の方向を向かせる手もあるが、それだとライバルの想いに正面から応える形になってしまう。この時点で自分に正直に生きようとしてしまうのだ。これだとマズい。セリフと合うように、かつ表情を見せてその感情を伝え、更に視線誘導のための吹き出しの位置まで考慮するとなると、やや大きな配置変更が必要かもしれない。どう変えるかは、いずれ広く公開する(そして特に受賞などの評価も得ないだろうから期間限定で消えていく予定の)完全版を見ていただきたい。(ここをどうすればいいかという質問が出来なかったことがもったいなかった)

 以上のように、登場人物の顔は「覚えてもらうため」「感情を読み取ってもらうため」にサボらず描くべしということを学べた。非常に貴重な経験であった。

B:最初の3ページで事件を起こせ

 この項目について述べる前に、感じている疑問やすれ違いを先に記しておきたい。

 それは、この作品の「テーマ」「舞台やジャンル」「エンタメ部分」である。作品を公開する前に言ってしまうのは卑怯だと思うのでざっくり表現するが、実はこの作品、筆者にしては珍しく「こういう人たちにこういう想いを伝えたい」というターゲットを明確にして構築した作品であった。ただ、そのような「テーマ」を表現しただけでは価値観の押し付けや説教臭いだけの話になってしまい「読んでいて楽しくない作品」になってしまうので、「エンタメ部分」として王道の「友情」「バトル(試合≒デュエル)」といった要素を設け、「舞台やジャンル」として地方の小さな学校とフットボールを選んだ。そしてそのテーマ(主人公の悩み=問題)を序盤に出しつつ、冒頭からそれを出すと説教臭くなるので「ページをめくらせる勢い」と「主人公が本当は理想としている姿」「だが目の前にある現実」をクロスさせて読者を引き付けようとした結果が、以下の導入であった。

 だが、第二の指摘はこの冒頭部分が全く要らないというものであった。何故なら、この作品のエンタメ部分は「友情」「ライバルとの関係性」であり、それに全く関係しないから…という理由である。そのため、冒頭に配置する問題提起として、次のページを3ページ目までに持ってこないと読者が読むのをやめてしまうというのである。

 もしこの指摘に従うとすれば、1ページ目(左)では主人公とライバルが二人でパス交換でもしている姿から始めて、そのページの中段か下段で「実は私さ」とライバルが呟くヒキを作って、めくった右側のページで上の問題提起を起こすというものだろうか。そうすれば問題提起はクリアできる。

 この指摘は、「エンタメ性」を最優先項目に持ってきた時に正しいと感じた。そしてそれと同時に、自分がテーマとして設定していたものが何一つ伝わっていなかったか、或いはどうでもいいものとして切り落とされてしまった絶望感にも襲われた。質問を促された時に何を尋ねればよかったのか、頭が真っ白になって考えられなくなった原因の大半はこれである。

 商業漫画は娯楽商品である。楽しくなければ意味がない…とまではいわないが、楽しく読んでもらったほうがいい。そのための味付けがエンタメ性だと思う。だが、エンタメ性だけであれば爆笑動画やアクションゲームに負けてしまう。漫画における「面白い」とは何か、物語を読む楽しさとは何か、本当にわからなくなった。理由の一つとして私が序盤でテーマを明示出来なかった技術力不足も原因だと思うが、心を何一つ揺さぶれなかったのかと悔しくて仕方なかった。

 だが、ここでへこんでばかりの筆者ではない。例えば技術的な問題として、冒頭のトーン掛け部分が主人公の妄想であるということをわかりやすく伝えきれなかった筆者の表現力不足があるが、これはトーン部分の衣装をガラッと違うものに変えなかった選択ミスもある。これは修正できる。また実況の文言に「W杯本選出場を賭けた大事な一戦!」みたいなものを入れたほうがよかったかもしれない。それもまた修正可能な点であろう。しかし、当日サークルスペースで本をお持ち帰りになった方々には冒頭部分の意味が伝わっていたように感じたので、目の前の反応が全てだと狼狽えて全部修正するというのも違う気がした。ここが難しいところである。もっと色んな人に見てもらうべきだったと反省している。

 世の中に出れば出るほど、通常の和差積商は通じない。数字は正直だが、絶対の方程式が存在しないのも確かだ。これから挑戦する方々には、こういう時に「目の前の一つの答えが全て」だと思いつめないでほしい。どんな作品でも「面白い」という人もいれば「面白くない」という人もいる。また、この項目の初めにも述べた通り「ターゲットの設定」を明確に行った場合、そこから外れる人には伝わりにくいというデメリットが発生することもある。これはトレードオフである。「刺さる人には刺さる」を選ぶか「万人受け」を選ぶかみたいなものだ。だから、少し心に余裕をもって、目の前の指摘に自分の全てを否定されたような気にならないでほしい。目の前にいるのは現人神でも閻魔大王でもない。ただ一つだけ確実なことは、漫画を生活の手段として扱っている人達が肌で感じる「すぐ事件を起こさないと読んですらもらえない」という危機感は間違いなくそのとおりであるのだと思う。

 もちろん、読み手を意識して修正すべき点はしっかり修正する必要があるのだが、「やれることは全部やるんだ!」という気持ちを大事にしつつ、場合によっては「所詮貴様とは価値観が違うようだな」みたいな心のゆとりをもって創作に励んでほしい。育ってきた環境が違ったらそれだけで伝わらないことだってあるし。そういう時もあるよ、ということで。

 なお、この指摘に対する私の選択肢は「テーマが伝わるビジネスパートナーを探す」「テーマが伝わるように表現を変えられるところを試行錯誤する」「ばっさり切り捨ててエンタメに振り切る」といったところなのだが、本当に判断が難しい。地方在住でこんな歳だと色々ぶつかれるチャンスもないのがもどかしいものである。こういう時に相談できる読み専の友達などがいると非常に助かる気がする。

C:情報の取捨選択と説明役のモブ化

 Bとつながっているのだが、情報の取捨選択が甘いという指摘もあった。例えば主人公とライバルではない、説明役である第3の登場人物が「説明役にしてはキャラが立ちすぎている」「そのせいでキーマンとして何かしてくれるのではないかと期待してしまうが、実際はそこまで何かを行うわけではない」という評価を受けたのである。

 この時の解決策として提案されたのが「説明役であればもっとモブ化させて、表情が映らない二人組などに置き換え、読者の注目を主人公とライバルに絞らせる」という案で、まさにこういう案を提示していただけるというのが持ち込みないし出張編集部のいいところである。普通はお金を払って読んでもらって、添削してもらってというのが当たり前なのだが、これを無料で行ってもらえる機会を利用しない手はないと筆者は考える。…わかる。指摘されるのが怖いのはすごくよくわかる。でも、多分友達だって、いや、友達だからこそ言いにくいようなそんなことを言ってもらえる機会なんて滅多にないから是非挑戦する機会があれば挑戦してほしいと思う。

 さて、話がそれてしまった。実はこの解決策なのだが、時期的に言えばこの次に創った作品ではこのとおりに実行している。

 こちらの作品では主人公二人に注目してもらうため、説明役の同級生は極力目立たないようにモブとしての表現を強めている。(それにしても絵が下手だな…久しぶりに見たら恥ずかしくて倒れそうだ)

 ではなぜ今回頒布したサッカー漫画では説明役にある程度強度を与えたのかというと、それがテーマに相反する「見て見ぬふりをする生き方」の姿として表現していたり、主人公とライバルが最終決戦に向かうまでの演出を高めるスパイスとして必要と考えたりした結果だった(それでもかなり設定を削ってモブ化しているつもりだったが、まだ甘かったようだ。もしかすると想定している読者の年齢層に差があった可能性もある)。

 ただし、この作品を「テーマ」をすっ飛ばして「エンタメ性」中心で考えたら確かに不要な存在になる。そのため、この「テーマ」の部分が「捨てるべき情報」として読まれたのではないかと考えている。ここには先の項目と同じ課題が控えている。「いかに説教臭くなく楽しく読ませることが出来るか」と「読んだ後も手元に残しておきたいと思わせる強い余韻を残せるか」のバランス感覚である。目の前にいるのが自分の本当のビジネスパートナーだったらそのあたりを深く突っ込んで相談することが出来るのだが、如何せん私の人生には残り時間が少なく、残念ながらそのような機会を得られそうにない。非常に無念である。

 はてさて、この第三の人物をどうするか。正解はどこにもない。いっそそのままいくのも悪くないだろう。ただ、これも色んなブースを回って様々な意見を聞くべきだったと思う。一人サークル参加だったので仕方ないが、もしこれを読んで挑戦しようと思った方がいれば、その時は複数のブースを回って色んな意見を聞いて糧としてほしい。意外に思っていたレーベルのほうが自分に合っているという可能性もあるし、複数で同じ指摘をされたらそれは間違いなく改善すべき点として確信が持てると思う。

最後に:挑んでいいし落ち込まなくていい

 文字を考えるだけでも疲れてしまったのか、最後はグダグダになってしまった気がする。情けなく申し訳ない話であるが、少しでも恐怖が減ったり、やる気が出たりしてくれたら幸いである。

 私は今回の持ち込みを経て、指摘の中には「技術的な指摘」と「感性的な指摘」があると感じた。前者は「誰が見ても似たような指摘を受ける問題点」で、後者が「見る人によって評価が変わる部分」だ。後者は明確にミスと言えないし、なかなか納得するのも難しい内容である。途中にも記したが、目の前の一つの意見に全て振り回される必要はない。時々理不尽な態度をとられたり失礼な言い方をされたりするだろうが、そういう時もすぐ落ち込むのではなく、どこか俯瞰してゆっくり考える余裕を持ってほしい。今は多様性の時代なので、時には自分の感性を信じることも大事だと思う。

 作品が商品になるとなれば必然的に厳しい目にさらされるし、何ならそれを商品として営業したり広報したりしてくれる人達のためにも譲らねばならない点も多々出てくるとは思う。逆に自分の世界を大切にしてコミティアのような即売会やDL販売を中心に発表していくのもいいことだと思う。ただ、何か指摘されるのを必要以上に怖がって、本当は挑戦したいのに逃げ続けるのだけは本当にもったいないしすべきではないと感じたのだ。どうしてもそのことを伝えたくて、今回自分の恥をこうしてさらしてでも記事にしたのである。

 願わくば、未来の挑戦者にとってこの記事が、夢を叶えるためのカタパルトとならんことを。

喫茶空母にゃんフィールド
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